第一話から読んでね


豪邸の噂


引っ越し屋は儲かるのであろうか?


 社長さんが住んでいる家は、結構ぼろい。


 古い木造の平屋で、中にある家具なども高級品などは置いていない。


 子供がいないのに、社長は貧乏なのであろうか?


 私は運転手をするようになって、お客さんと直接料金の精算をするようになった。


 つまり、どれくらいの料金を取っているかを把握できるのである。


 しかも、自分が貰うバイト代を知っているわけだから、いくら社長の懐に入るか自ずと分かってしまうわけである。


 はっきり言って、引っ越し屋は儲かる。


 今の運送業会では競争が激しく、儲かるとは言い難いらしいが、少なくとも私がバイトしているときは儲かっていた。


 8万の引っ越しを2人でやった場合の人件費が3万、経費が1万としても残り4万の50%は純利益である。


 ぼろ儲けである。私も引っ越し屋をやろうかと思ってしまうぐらいである。


 じゃあ何故社長の家はぼろいのか?


 特に社長がケチで貯め込んでいるという様には見えない。


 私は常々疑問に思っていたが


「社長、なんでこんなぼろい家に住んでるんですか?」


とも聞けないので、一つの謎として私の中に残っていた。


 しかし、この疑問の答えは、ある日の仕事が終わった後で判明した。


 この日は仕事が終わった後に、社長が妙に機嫌が良くて、


「おう、ビールでも飲んでいくか。」


と一杯誘ってくれたのである。私も酒が嫌いな方ではないので、


「あ、いただきます。」


と返したわけである。


さすがに力仕事の後のビールは格別で、最初の一杯のうまいことうまいこと。


社長の家の冷蔵庫に入っているビールをあっという間に飲み干してしまい、私はお腹に社長の奥さんが作ってくれたつまみしか入っていなかった事も手伝って、視点が合わないぐらい酔っぱらってしまった。


社長は元々酒が強いため滅多に酔わないらしいが、今日は私のペースに合わせてガンガングラスを空けたためか顔が真っ赤になり、気持ちのいいことこの上ないという雰囲気であった。


「社長、今日は上機嫌ですねー。」


「おーいいことがあってな」


「いいことってなんですか?」


「おー家ができたんじゃ」


「へ、家ですが?」


「おう、石川の里に土地買って、家建てたんじゃ」


げ、金あるやんけ。とでも言いたい気分であった。

やっぱり引っ越し屋は儲かるのである。


 この後、社員さんやバイト仲間の話や噂を総合した社長の家とは、


所在地:石川県
敷地:約300坪
建坪:約100坪
建物:木造の平屋
庭:池があり、周りは塀で囲まれる。


である。子供がいない社長夫婦には、老後にはさびしいのではないだろうか。


この話を聞く限り、社長は後1年ぐらいでこの引っ越し屋をやめ、田舎に引きこもって副業の座卓製作を生業として暮らして行くつもりらしい。


それくらいの蓄えはできたみたいである。


少し私はうらやましいが、まだ東京で暮らし、遊んでいたい気持ちの方が私を支配していた。


つづく