社長さんの副業
社長さんは実を言うと、手に職を持っている。
引っ越し屋というよりは職人と言った方がいいくらいのすばらしい技術を持っている事に気付いたのは、バイトを初めて半年ぐらい経ってからであった。
いつものようにバイトの依頼の電話が入ったのでてっきり引っ越しだと思っていたのだが、その日は引っ越しではなく社長が作った座卓の納入であった。
座卓と言っても、ドラマで見られるちゃぶ台みたいな小さな物ではなく、一辺が2m近くもあるでっかい座卓である。
しかも、ほとんどが1枚の木を輪切りや縦割りにした物で、真ん中から年輪が広がり厚みが15cm~20cmもあり、また座卓の足も20cm角のぶっとい物だったりする。
樹齢何百年とかいう老木など、ザラらしい。
そういえば社長の家の裏には大きな倉庫と作業場らしき物があり、古そうな木材が山と積まれてある。
倉庫で今までに手に入れた木材を、長期間寝かしているみたいである。
作業場で作られた座卓は、表面がピカピカでずしりと重く運ぶのが大変なのである。
一度、社長の作った座卓の展示即売会の用意にかり出された事があったが、付いていた値札にびっくりしたものである。
だいたい標準的なもので70~80万円、ちょっと味があったり大きくボリュームがあったりすると100万円は軽く越えているのである。
社長いわくこれでも相場よりは安いそうである。
この日のバイトは2人で、社長、社員さんをあわせて総勢4名である。
4角をもって何とか運べる様なでっかい座卓の納入が今日の仕事である。
当の座卓はどんな物かというと、大きさが2m×1.2mぐらいの木を輪切りではなく縦に切った綺麗なピカピカの座卓である。
材木の種類は社長に聞いたのだが忘れてしまった。
しかし、この木は北海道の湿原で埋まっていた物で、相当古い物らしく、木の材質自体が変化していて非常に重くていい物だと言っていたように記憶している。
その言葉は大げさではなく、家の客間にこんな座卓があれば、訪ねてきたお客の話題になることは間違いないであろう。
納入先は三鷹駅前で、いったいこんな豪勢な座卓が置かれても負けないような大きくて立派な部屋が、東京の一等地にあるのであろうか?との疑問が沸いてきた。
土地は高くても、ちっちゃな家ばっかりという印象が強いのが東京の一軒家である。
とにかく行ってみるしかない訳で、トラックの荷台に厚手の布団を敷いて4人でやっとこさのっけていざ出発となった。
三鷹までは結構すぐで、20分ほどで近くまでたどり着いたが、一方通行が多く、多少迷った後、お客さんの家に到着した。
「げげ。でかい」
最初の印象である。
三鷹駅からほんの数分の場所のはずであるが、少し高めの塀に囲まれた敷地は3、4百坪はあろう。
周りは何故か畑になっており、見晴らしは非常に良い。
東京では最高の立地条件であろう。
建物はというと、二階建ての少し古めの農家の様な縁側のある家であった。
塀の中に入ってみると、ココが東京であることを忘れてしまうぐらいのびのびと感じる。
トラックをいれてバックで縁側のすぐ近くまで寄ることできるため、運び入れは思ったより簡単にいけた。
高価な物のため、細心の注意を払って縁側に面した12畳ほどの和室に座卓を納めた。
和室の真ん中に座卓を置くと、そのピッタリと調和することビックリである。
豪勢な欄間と床の間にかかった掛け軸や、縁側から見れる大きな庭、最高の条件である。
社長は自分の作品が、最高の条件で使われる事に非常にご機嫌で、お客さんのご主人と共にご満悦のご様子である。
出されたお茶をすする社長の顔は、正直言って引っ越し屋ではなく、座卓作り職人以外何者でもない顔に変わっていた。
ひとしきり、満足感をお客ともども味わって、ほんの数時間のバイトを終えた。
この時は、社長の事を非常に羨ましく感じたのを良く覚えている。










